二頭の竜

第一編「ボクと竜のおじちゃん」

第一話「終了と開始」
「松長透(まつなが とおる)」
そう紙に書いた。だってしょうがないじゃないか、そうしなくちゃいけないんだもの
ボクはこの現実を受け入れなくちゃいけない。この紙が期末テストの解答用紙だという現実を、、、、、

はぁ、、、、、よりにもよって期末テスト最終日最後の科目が数学だなんて、鈴木のヤツの陰謀か?
まったく、いつもいつもボクが出来ないとわかっていて難しい問題を出してくる。
そして赤い線がたくさん跳ね回っているテストをボクに手渡しながら、鈴木の野郎はいつも
「点数が低い、授業で教えた内容なんだから、これくらい出来るだろうが」
とぼやくのだ。
ボクのせいじゃない、お前がこんな問題を出すから悪いんだ。って、言ってやろうかと何度も思ったけど、これ以上鈴木に関わりたくないので、やめておいた。

ボクは自慢じゃないが頭はいい方の人間だと思う。国語のテストは常に80点越え、英語だって平均以上はカタイ、歴史なんか一度教科書に目を通せば90点をゆうに越える。
だが、数学はダメだ。あんな数字や文字が並べられただけのものを見て、何を理解しろと言うのだろう、まったくけしからん科目である。

いけないいけない。愚痴を考えている間にも、テストの時間は過ぎていくのだ。まずはこの数字と呼ばれる黒インクを倒さなくては、、、、、、、






「あ゛ぁ゛ー、終わった。」
この場合の「終わった」には二つの意味がある。
長いテスト期間が終わった。という意味と、ボクの成績に一つの赤い文字が浮かぶであろう。という意味である。
こればっかりは仕方が無い、宇宙の真理なのだ。きっとそうなんだ

そんな風に自分をごまかしていたら、こちらは数学しか出来ない田中君がやってくる。こいつも鈴木と同じくらい気にくわない。
数学のテストの後はいつも決まってボクに近づいてきてこう言うのだ
「「どうだった、数学の出来は?」」
見ろ、田中の野郎、自分が何を言うのか見透かされていたのかと驚いてやがる。馬鹿が、自分の習性に全く無頓着なのだろうか。貴様の行動パターンなぞ、お見通しだというのに

「いつもいつも、同じ台詞ばっか吐きやがって、貴様はそれと数字遊びにしか興味ないのかよ」
「数字遊びとは何だね! いいかい数学というのはだなぁ・・・・」

ご高説感謝いたします、はい、田中様ー。っと適当に耳をふさいでカバンを持つ。こちらもお決まりのパターンだ、数学の話を始めるとコイツは周りが見えちゃいない。
一番傑作だったのは、保健体育の時間になってもまだ数学の話を続けていたものだから、「鉄拳の鬼沢」と恐れられる鬼沢教諭に面白いほどキレイに殴られて、中庭まで飛ばされてたという事件である。あれはきっとこの並木中学校の伝説として語り継がれるだろう。
『空を飛んだ男 2年1組 田中聖矢』としてね。

「ッ!!!」
あまりにも自分の妄想が面白かったので、噴出してしまった。ほら見ろ、クラス1の美女、川井さんに笑われてしまったではないか

顔を真っ赤にしてボクは学校を飛び出した。

〜〜〜


なんにせよ、これで期末テストは終了。あとは冬休みを待つばかりである。
だらだらと授業を受け、放課後には友達と近所のゲーセンで遊び倒す。そんな平凡極まりない生活を送るのだ

ボクは本気でそう信じていた。
あの男に会うまでは

あの男に会いさえしなければ、ボクは普通の中学生として、まだ生きていけたというのに、、、、、、、、、今考えてもまったくもって不運としか言いようがない。


テスト終了後の疲労感と共に帰宅の路についたボクの目の前に、その男はいた。
ツンツンの銀髪、中くらいの丸メガネ、黒い奇妙な模様の服の上に白衣を着た長身の男。

そこまでは別にいてもおかしくない。普通の人間のソレと同じだった。
だが、ヤツの持っているモノが異常だった。

ヤツは、血に塗れた2本の剣をその手に持っていたのだ、、、、、、、、、、