第二話「出会い」
血塗れの剣を持つ男がこちらを振り向く
『ヤバい』
本能がそう告げている。でも、足が竦んで、動けない。
くそっ!こういう時のためにあるんだろ!人間の足ってやつはさぁ!!
動け!動けよ!ヤバイんだ、今動かなきゃ死んじゃうんだ、今逃げなくちゃ死んじゃうんだ!ヤバいんだよ!逃げなきゃ死ぬ逃げなきゃ死ぬ逃げなきゃ死ぬ絶対死ぬ!殺られちゃうんだよぉぉぉぉ!
「アラァー? 自警団でもヤツらでもなさそうな子供が、ナゼこんなところニ?」
自警団?ヤツら?なんのことだよ、なんなんだよコイツ、頭おかしいよ!なんで剣なんか持ってるのさ、そんなのSFとかにしか出てこないんだぜ!?今の時代はよぉっ!
俺、殺されるのかな?やっぱ殺されちゃうよな?見ちゃったもんな くそっ!くそっ!ファーストキスもまだなのに!まだ死にたくねえ!死にたくねえよ!
「アー、、、なんだか怯えられてしまいましたネ。大丈夫デスヨ、害のないものを傷つけたりはしまセンから」
「え?」
嘘だ、絶対嘘だ。そんなやつが剣なんて物騒なもん持ってるはずがない。油断させて殺す気だ、絶対そうだ!
くそっ、動かないのかよ、まだ動かないのかよ、俺の足はっ!
「フゥゥゥゥ、、、、あ。イケマセンね、しまい忘れてマス。」
そうつぶやいた次の瞬間、男が手に持っていた剣がなくなり。そこには・・・・
傘があった。
なんの変哲もない、ただの傘、駅で売ってるみたいな安いビニ傘に変わっていた。
なんだか一気に拍子抜けした気分だった。。。。今までのが夢だったみたいに、周りの空気の温度まで違っているように感じる。
いやいや、見た、俺は見たじゃないか!あの2本の剣を!この眼で!
どういうことだ?仕込み武器だったのか?でも、傘なんてなかったぞ? あいつ剣しか持ってなかったはずなのに、なんで傘なんか????
あぁー!もぅ!どうなってんだよ、これ!
「フム、大分警戒されてマスか、まぁ、無理もありまセンネ、見たとコろ一般人みたいデスシ……しかし、おかしいですね、一応結界は張ったのですが、まだ馴染んデないんデショか」
「な、なんなんだよ!アンタっ!それにさっきの剣はなんだったんだ!なんだよ、これっ!」
「ンー、何と言われまシテも、ワタシはワタシですヨ? あと、剣なんて持ってないデスヨー? ただの傘です。あなた見間違イですね、きっと。」
「嘘つけよっ!さっき持ってたじゃないか、真っ赤な血のついた剣をさっ!」
「ハハハ、何言ってるですカ、この時代に剣なんてもの、博物館ぐらいにしかありまセンって」
なんなんだ、コイツ、今さらしらばっくれて。
「フム、大分興奮してるヨウですし、ちょっと眠ってもらいますカナ」
「えっ?」
男はいい終えるとボクの前から姿を消し、次の瞬間にはボクの意識も消えていた。
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・
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「んぼっ!」
あ、あれ?ここは、、、、、俺ん家か
つーことは、さっきのは、、、夢? うっはぁー。ビビッたぁー、なんだよ夢かよ、リアル過ぎてビビッちまったじゃねえか。
寝小便、、、、はしてないな、うんOK。万事OK、世は事もなしだ。
「あーぁ、変な夢見て気分悪いわぁー」
「ん?なんだトオル、締まらん顔をして。もっとシャキっとせい、シャキっと!そんなんではいざ敵が来た時、勝てんぞ?」
「オヤジぃ、そうそう敵なんてものは現れないから心配すんなってぇ。最近の警察は有能だから、犯罪者さんとも滅多にめぐり合えない世の中なんだからさー」
「フン、警察なんぞ。真の敵の前では赤子も同然ぞ。何度言ったら分かるのだ、この軟弱息子めがっ!」
「へん、言ってろ。」
ん、間違いない、ウチのオヤジだな、毎日毎日「敵が、敵がー」って喚く偏屈オヤジ、こんなオヤジがいるのも平和な証拠だな。これで松長道場の道場主だっていうんだから、驚きだよなぁー、、、、、
先祖代々受け継がれてる松長流合気道。それをオヤジも律儀に受け継いでいく気でいて、俺に「敵が来るときに備えておけ」とかワケの分からないことを言って受け継がせようと必死だ。どこに敵がいるっていうんだか・・・道場破りか?
まぁ、あまりにもうるさいのでたまには稽古に付き合ってやるが。正直筋トレと護身程度にしか思ってない。親父には悪いが、松長流は俺の代で途絶えるぜ。スマンな
そんな風に、ご先祖様にも詫びを入れようと思案していた時、、、、、目の前に信じられないものがいた。
あの男だ
夢の中の登場人物だったはずのあの男が、夢と同じ格好でうちの厨房に立っているのが見える。
「う、嘘だろ・・・・」
「ア、起きましたか。トオル君。いやぁー、君が松長家の人間だったとはねぇー。驚きましたよぉー」
「な、ななな、なんでお前がここにいるんだよ!オイ!」
「なんで、って 気絶したキミをここまで運んだのは僕なんですよぉ?少しは感謝してほしいデスネ」
「気絶させたのはお前ダロ!!常識的に考えて!」
「アレ、気づいちゃってマシタ?ハハハハ」
悪びれずケラケラと笑う銀髪ツンツンメガネ男。一体なんなんだ、コイツは。
「おい、オフクロ!そいつから離れろよ!殺されるぞ!」
「なんてこと言うのかしら、この子は。リュウジさんはねぇ、我が松長家に大恩のあるお方なのよ? そんな人を殺人鬼扱いするんじゃありません。メッ、ですよ?」
「くそ、もう洗脳されてるのか。オヤジ、ほらあそこに敵がいるぞ、オヤジ!なんとかしろよ!」
「リュウジさんを敵だなどと、阿呆をぬかすでない、この軟弱息子め。鍛え方が足らんのだ、貴様は」
くそっ、オフクロもオヤジも、きっとあの男の、、、リュウジとか呼ばれてるあの男の毒電波でもくらって頭がおかしくなってるんだ。
なんとかして2人を救わないと。。。。
「フゥ、誤魔化さないでちゃんと説明したほうが良さソウですね。」
「説明だぁ?俺は騙されんぞ、貴様は殺人鬼だ、そうに違いない。でなきゃあんな物騒なもんを持ってるわけがないんだ!」
「デハ、君は昨夜ワタシが誰かを殺したのを見たとデモ?」
「違うって言うのかよ。人殺しでもしなきゃ、あんな真っ赤な血のついた剣なんて持ってないだろうよ。」
「フム、それでは、あの場には死体がありまシタか?」
「なかったよ、でもそれがどうしたってんだ!別の場所で人を殺してきたってだけだろうが!」
「よぉっク思い出してください、トオル君。あの場所にあった『モノ』のことを、君は覚えてイルはずです、あれだけ大きいものですかラ、見ていない。なんてことはないでしょう?」
「あの場所にあった、、、、『モノ』、、だと?」
この男のことばかりを考えていたから、あの場所のことなんて思い出そうとも思ってなかった。。。。。。あの場所に、何かあったっけ?
「………あ」
そう、あったのだ。悔しいが、その男のいうとおり、その『モノ』はあった。その男の姿よりも、あまりにも非現実過ぎて、視界にはあっても認識できていなかったのだ。
それを今やっと、この場で認識した。
あんなものを思い出したというのに、なぜか俺は冷静だった。恐怖でさっきまでの興奮が飛んでいってしまったのかもしれない
「そういえば、何かあった。なんだったんだ、アレは。いくつものデカイ黒い塊、あの道にあんなもんはなかったぞ? いや、でもそれが血塗れた剣を持ってる理由にはならんだろ!?」
「それが、なるンですよ。あの剣の血は、あの黒い塊『デモン』を切っタ時についた血なんですカら。」
「デモン、、、だぁ?」
「そう、デモンです。あれも一応生き物のようでネ、斬ると一丁前に血を噴出すんですよ、それモけっこうな量。困ったものデスよネぇー」
「ハン、そんな話誰が信じるか、貴様は殺人鬼で、そんでもってペテン師だ。お前のファンタジーなお脳から出たウソなんて、誰が信じるもんか。」
「フー、言葉では信じてもらえマせんかぁ。いいでしょう、どうせこの後またデモンを狩りに行く予定でしたから、それを見ていただきまショう。いイですカ?アキラさん。」
「そうですな。結界の中にこの子が入ったということは、信じがたいことですが『そういうこと』なのでしょうから、理解せねばなりますまい。どうぞ、リュウジさま……あ、いやリュウジ『さん』が、このバカに教えてやってください」
「ハイ、ではお父上の了解もいただキましたし、参りましょうか。」
「お、ちょぃ、なんだよ、俺の意思は無視かよ。学校とかあるんだぞ?俺は。」
「大丈夫よ、ワタシがちゃんと学校には連絡しておきますから。いってらっしゃいな」
「ちょ、オフクロまで、、、、、ちくしょう、親がこんなに薄情だとは予想外だったぜ。。。」
「ハイハイ、観念したようですネ。それでは、行きマすよー?」
「ちょ、待っ……」
待ってくれ。と言う暇もなく、俺はリュウジとかいう男に連れ去られた、殺人鬼でペテン師の上に誘拐犯かよ(親の承諾付きだがな)
ちくしょう、そんなに言うんなら見極めてやろうじゃないか。この男が言ってることがウソかホントか。
望むところだ。こう見えて俺は目がいいからな、手品の仕掛けだってすぐ見抜ける。チャチなトリックで俺を騙そうったってそうはいかないんだからな・・・・・
しかし、その決意は、数分でへし折られることになる。どうしようもない「現実」によって・・・・・