オートマトン達は禿ヒュムの夢を見る

第1話「きんときは親方の夢を見る」

オートマトン
それはアトルガン地方にて約60年の昔、ガッサドというガルカの職人によって開発された半自律的に行動できる自動人形。

「からくり士」
それはオートマトンを自在に調律・操縦し、彼らと共に生き、彼らと共に旅する者。

これは、オートマトン「きんとき」と、そのマスターのからくり士「太郎」の物語である。
最初の旅の舞台は小さな港町「マウラ」

「太郎」はガッサドの元でオートマトンに関する技術を学んだ後、自らの手で作りあげた汎用タイプのオートマトン「きんとき」を、他のどんなからくり士のマトンよりも優れたものにするため、修行の旅に出ることを決意した。

そうして、スキンヘッドの強面ヒュームと、少し生意気なオートマトンの旅が始まった。



アトルガンの港を出て、数日。マトンの手入れをするための道具に錆びが入りかけた日、彼らはマウラの港に到着した。

『うっひー、まったくなんで潮風っていうのは金属に対する労わりってもんがないのかねぇ? ボディがキシキシいってるよ…』
「ハッハッハ、そう愚痴るな。後で上等な油をさしてやるさ。」
『お、言ったな親方。いつもの演目みたいに嘘ばっかりだったら許さないからな?』
「フン、いつだって俺達のショーは真実に満ち溢れているじゃないか。盗作なんて一つも無いし、全てこの俺の実力の賜物だよ。 っていうか、いい加減止めてくれいなか?その[親方]っていう呼び方。俺はまだ一人前の職人にもなれてないってのに、[親方]だなんておこがましい…」
『おぅおぅ、あんまケンソンすんなって、あの糞ガッサドに「もうお前に教えることは何もない、旅に出ろ」なんて言わしめたのはどこのロシアだい?いやどこのドイツだい?』
「…ロシアってなんだ? というか、アレは単にガッサドさんに工房を追い出されただけだよ。別に俺の実力が認められたわけじゃないさ」
『ま、そう悲観しなさんなって、からくり士は笑顔を与えるジョブじゃないか、ニッコリ笑おうぜニッコリよ。』
「別に悲観なんかしちゃいないさ、どっちみち工房の油くさい暮らしにも飽きてきた頃だったしな、ちょうどいい話だったのさ。さ、これでこの話はオシマイだ、とりあえず長旅の疲れを宿屋で癒そうじゃないか。」
『あ、お前が風呂に入るより、俺の体に油さすのが先だからな。いつものオキテ忘れんなよ?』
「はいはい、分かってるよ。風呂に入ってる間に敵に襲われて、お前の体が上手く動かなかったらヤバイってんだろ?分かってるよ[きんとき]」
『うむ、分かってるならいいんだ。それじゃサッサと宿屋を探そうぜ、[太郎]。このままじゃ錆びちまう』

1人と1体は軽やかな足取りで、宿屋へ向かっていった。


次回「太郎は赤い悪魔の夢を見る」